fc2ブログ

㈱パイン・プロデュースのスタッフ・ブログ

出版事業者の役割とは

台風一過で、一昨日より関東地方は、俄かに猛烈な暑さに見舞われました。
梅雨明け宣言はまだされてないようですが、いよいよ本格的な夏の訪れが肌で感じられるようになった気がします。

さて先日、東京ビッグサイトで開催された電子出版EXPOに出かけてきました。
昨今、スマートフォン、タブレット端末といった、新たなデバイスが台頭してきたことが、出版分野の電子化を促す一つの力になっていることは、御周知のとおりですが…

このような動きの中で、出版業、特に楽譜の出版をメイン・ワークとしている私共が成すべき役割とはどこにあるのか、ということを、雑感的に綴ってみました。

実際のところ、電子書籍という名称を耳にするようになってから決して日は浅くありませんが、前述したように、新たなデバイスの台頭が、この分野の進化をより加速させているようです。
私自身、スマートフォンもタブレットもプライベートで利用していませんので、実際、電子書籍というものに、直に触れたことが殆どないのですが、EXPO会場に展示されているサンプルを拝見し、「書籍」と呼ぶだけのクオリティは十分に備えているし、見た目の美しさは勿論、ページ移動やズームイン/ズームアウトが自在であること、空気に触れて劣化することは無いこと、映像、音声など別のメディアを併用できること(この分野においては、目下開発途上とのことですが、様々な方法論にて試用が続いているようです)、そして何より、収容力に長けているということ、このような点が、従来の書籍に見られない、電子出版ならではのメリットのようです。
この分野は今後、間違いなく成長していくであろうと確信するところで、出版を生業とする私共としても、このような動きに、ある程度は追随していかなければならないのかなと、ますます感じているところですが・・・

それならば、近い将来、出版の分野は全て、電子化へと移行していくのでしょうか?

上記のようなメリットから、電子化への勢いは、やむことは無いでしょうし、従来の出版の分野が先細りしていくことは、否めないでしょう。

しかしながら、従来通りの、ペーパーに印刷された、つまり「本」というものは、滅びることは絶対にないと、ここだけは確信してやまないところです。
累積すれば何千、何万というページ数にのぼるデータも、一枚の薄いメモリカードに保存されてしまう。
このようなものを何十枚か持っているだけで、図書館も顔負けの蔵書数を保有することができる。
それだけに、所有者の、一冊一冊に対する想いというものは、当然薄らいでいくでしょう。
仮に、入手してから何十年という年月を経ても劣化しないということ、この点がむしろ、「本」に対する思い入れを薄らげていく最たる原因になるのでは、とも思いました。
確かに、何十年も前に購入した本は、紙が黄ばみ、角が取れて丸くなり、あるものは外れかけたページがセロテープ等で補強されたり、一見ボロボロになっているものも少なくないでしょう。
しかし、見た目が劣化すれば、そのものの価値は下がるでしょうか?

そして、ペーパーに印刷された活字の持つ温もり、紙を直接手に触れてページを動かす感触は、これこそ、生の本でしか味わうことのできない、読書家にとって、この上ない醍醐味ではないでしょうか?
このようなものでは、電子というメディアでは、私たち出版者が、読者の皆様に決してお届けすることのできないものと確信しております。
特に、楽譜の分野においては、以上のことは一つももれなく当てはまり、それどころか、このようなことが最も強く感じられるのではないでしょうか。

今後は、電子化という時流に、どうしても追随せざるを得ないでしょうが、従来の出版の分野を、今後も絶やすことなく守り続けていくことが、私どもの役割と捉えているところです。

一昨日、弊社の楽譜集をご愛用くださっている、「NAO ウクレレスクール」の主催者であられる、村田尚美先生とお食事の席に招待される幸運に恵まれました。
その折に、先生も私のこのような意見と全く同じスタンスで、楽譜というもの、音楽というものを捉えておられることがわかり、「楽譜出版者、冥利に尽きる」と心底感じたところでした。

楽しい時間を共有させていただけましたこと、先生にはあらためて、心より感謝を申し上げます。
スポンサーサイト